ガタイのイイ女キーパーは、大女のケージャーをゲットできるのか?



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ミリさんが、またきてくれてるんだよ!

紅潮した頬で言うあんたに、あたしはかける言葉がなかった。二年間、じっと胸に秘めてきた想い。そろそろ解放してもいいよねって思い始めてた、まさにその矢先だった。

あたし女専。男に惹かれたことがない。媚び媚びしないから、きれいめの男の子たちがあたしに寄り付く、安心だから。で、きれいぶってる女どもに、あたしが嫉妬されるわけ、毎度毎度。ゴリラ女のくせにって。

好きでゴリラなんじゃない。ふた親ともアスリートだったおかげか、運動神経頗るよく、かつまた瞬時に物事感じ取る。抜擢されたのが女子サッカーのキーパー。ストップ率は88パーセント。かなりなもんだと自分でも思った。スポーツ推薦でM学園来て、どんな凄腕がいるかとビビったのに、蓋を開ければ正キーパーは即あたし。試合も練習も怖いものなしだった。可憐な女子は周囲に一人もいない。こういう環境しかないさだめなんだと諦めかけた時、あたしはみつけた。水原那月を。

バスケ部のポイントゲッター。長身だけど均整とれてて美人。スリーポイントの名手にして、勝負度胸もあるからセンターも務まる。フォワードとして切り込むことも出来る。まさにオールラウンドプレイヤー。なのにキャプテンじゃない。どんだけ層が厚いんだ女バス。男バスがめちゃめちゃ文句言ってた。

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スリーポイント打つ彼女が好きだ。すうっと宙に浮き上がって、ふわってボールがゴールネットくぐる。レイアップシュートもいい。ディフェンスくぐってふわって舞う。ふわっ。そしてザシュッとゴールネットが鳴り、チームの得点がまた上がる。文字通りのポイントゲッター。そんな彼女が、強く惹かれ続けてる佐坂ミリ。どんな人?

あたしはsystemに行き、佐坂ミリとの面談を望んだ。運良く面談は即叶えられた。

思ったより小柄で、思ったより野暮。でも発言はきびきびと気持ちよかった。

その曜日は、先約がございます。この曜日と、この曜日しか、空きがございません。必要ならば日曜も、お空けいたしますが。

鈴を転がすような美しい声を聞きながら、いい人だなあと考えている。見ず知らずの、飛び込みの生徒候補にまで誠意示す。バイトとしては当たり前?でも労基もあるのだ。日曜まで差し出す必要などない。

美しい心。思いやり。小さく愛らしい造作。かなわない。何一つかなわない…

嘘面談終えて学校に戻ると、なんてこった!二年下の遠山アカネが、女バスコートに侵入しようとしてた。

あんたが水原那月?あたしは女サの

遠山!!

止めて、ひっつかんで、部室裏まで連れてった。

何言う気だった!?

先輩の、先輩の思いを…

言いかけて、アカネはわっと泣き出した。



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遠山アカネはたぶん来年キャプテンになるんだろう、そういうタイプの選手だ。的確に試合を見、流れを見、相手の隙を突く攻撃を組み立てる。そして私も。でも。

こと、恋愛ではそれができない。

あんたあたしが好きなの?

そんなことありません!

目の幅で泣いてるくせに否定するなよ。

だって、だって先輩、最近全然集中してないし!

確かにキャプも副キャプも二年生に譲ったけど、うちのチームの精神的支柱は先輩だし、その先輩が苦しんでるなら力になりたいし、それから…

言い訳すればするほど、嘘がだだ漏れてくる。あたしも那月の前でこうなんだろか。

切なくて、愛しくて、あたしは思わずアカネにくちづけた。

好かれてる。あたしも愛しい。この恋に飛び込んでしまおうと、それで那月を忘れてしまおうと思った。

夏の終わりまでは保(も)った。でも秋の風が吹いたとき、あたしは気づいた。あたしが、どうしても好きなのは…



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ごめんアカネ。

とあたしは切り出し、パワフルな平手打ち、一つ貰って別れた。どこかで気持ちが浮き立っていた。那月。那月那月。あたしは!あたしは!あたしは!!

でも神様はあたしにタイミングくれなかった。

だーから何でそんな萎んでんの!

励ましの平手すら、那月は背中で拒んだ。

何でもない。古い恋が疼くだけ。

ああ全然、那月は忘れていないのだ。

もしかしてあの、中学時代のカテキョー?

もしかしなくてもその人だ。なのに那月は目をみはる。

な、何でそんな話覚えてる!?

覚えてるさ。あんたのことなら髪の毛一筋のことだって。でも口からでる言葉は、さりげなくさりげなくあんたをおもんぱかるんだ。

だってこの話、あたし等仲良くなったきっかけじゃん。

そうだったっけ。うん。だね。せっかく志望校入ったのに、ドヨンだったあたしに、何で何でと絡んできてくれて、タマチとあたしは仲良くなったんだったね。部活も違う、コースも違う。なのにこうして今もダベってくれてる。あたしの悪友。親友…

涙がこぼれそうになる。それでも我慢して、我慢して。ついでに下手糞な探りまで入れるのだ。

でもって那月はまだその人が好きなんだ。

うん。好きだ。

ぐわー。ストレートにきやがる。

前好きだったからじゃない。前は見上げる存在だった。今は…

もうやめて。ほんとにやめて。でも神様。那月はやめない。

小さくはかなく感じる。守ったげたい!

ああもう…

叫ばれちゃったらどうしようもないじゃんか!

この後那月は決心したように立ち上がったっけ。

ごめんあたし、行くね。

とすら言わなかった。脱兎のように駆け出してった。ブザーゴール目指すように。





エピローグ



それでも十年待った。結局入籍。そのためにわざわざS区に引っ越すほどのバカだった。出席した面々と別れてから目黒川べりに佇んだ。引き出物のバームクーヘン、川投げ込んで、

水原那月のばかたれえええ!!

って、人目はばからず怒鳴ってしまったけど、よく考えると、それはあたしの声だけではなかった。同じ言葉がハモってた…

横向くと、少し離れてアカネがいた。

気がすみましたか?

十年。今では二代目澤穂希とまで言われてる、女子サッカー界の希望の星。

しつけーやつ。

はい。それで何度もカップ取ってますから。

もういい加減、

そこで名選手は言葉を継いだ。

あたしに落ちてもいいでしょう?

その後あたしんとこまで来て、一緒に川面、眺めたのだった。

どうなるかは、わからない。また平手打ちされるかも。でも今は、ちょっとだけ、押し負けてもいいかなと、思ってる。春だし。

               完

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